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近松賞選考結果

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第2回「近松賞」選考結果

第2回近松賞受賞作   『元禄光琳模様』   保戸田 時子

第2回「近松賞」では、平成15年5月1日から6月30日までにスイス・イギリスほか全国36都道府県から272作品の応募があり、1次審査で25作品、2次審査で12作品を選出しました。
平成15年11月10日の選考委員会で、保戸田 時子さんの「元禄光琳模様」を受賞作と決定し、正賞ブロンズ像と副賞300万円(出版権料・初演上演料・税含)を贈呈することが決まりました。
また、平成15年3月までに選評を掲載した小冊子を発行し、平成18年度には受賞作品を上演します。

第2回「近松賞」 受賞者

保戸田 時子

近松賞受賞者
保戸田 時子(ほとだ ときこ)さん
〈 東京都江戸川区在住 〉
近松賞受賞作
『元禄光琳模様』(げんろくこうりんもよう)

『元禄光琳模様』 あらすじ

尾形光琳、乾山の兄弟は元禄という時代に生きた芸術家である。
現代のバブル期にも似た華やかな時代。
財政に逼迫した幕府は次々と金銀を改鋳し、その結果下々にまで通貨が行き亘り、紀之国屋文左衛門を始め俄か成金があちこちに生まれ、派手な遊びを競うようになった。

光琳は雁金屋という京の町衆の伝統を継ぐ呉服商の家に生まれ、派手な遊びで耳目を集め、京の町の寵児であった。
しかし、本阿弥光悦と繋がる血筋、公家衆や大名衆との繋がりなど、絵師としての町衆としての自負は俄か大尽を快くは思わなかった。
が、遊びと金とは両立せず、銀改鋳で世盛りの銀座役人・中村内蔵助と親交を結ぶようになる。
しかし彼の本心は中村など俄か成金への、時代への挑戦であった。金と力で全てが手中に入ると思っている輩への、絵師・光琳の挑戦であった。

光琳は江戸に下る。銀座の元締め、時の財政の実権を握る勘定奉行・荻原重秀との交わりも得、権力に近づいて行った。しかし・・・・・・
時代は変わる。バブルははじけた。時の将軍・綱吉の死で。勘定奉行・荻原、中村内蔵助始め銀座の役人も失墜し罪を問われた。そして光琳は・・・・・・

寛保年間まで生き、時の変化を見続けた光琳の弟・乾山が回顧するかたちで、光琳の絵と生きざまを、元禄というバブリーな時代に浮かれ、そして沈んだ人々を、昭和・平成の現代に照射して描く。

保戸田 時子さん受賞の言葉

「佳作では?」受賞の連絡を受けた電話口で発した最初の“受賞の言葉”です。
近松門左衛門の名を冠したこの公募戯曲賞が大変大きなものであるとは思っていました。
果たしてその第一回は大賞該当なし、佳作(優秀賞)二編。
やはりハードルは高いと。ですから今回初めての応募で最終選考に残ったと聞いても「良くて佳作」と思い込み冒頭の言葉になったのです。思わぬ大賞受賞、光栄です。

実はこの作品、今から二十年以上も前にその初稿を書きました。
バブル景気の頃、何やら浮き立ち沸き立ち騒がしい世の中にいささかの疑問を持って書き始め、以後何度か書き直し、今回の応募に当たり現代の視点で更に手を加えたものです。
バブル崩壊後の「失われた十年」も過ぎてなお低迷する今。その時代の推移が、この作品の背景となる元禄というバブルがはじけ質素倹約の享保の改革へと移る時代の流れとピタッと嵌ってしまった感があります。今だから評価されたのかもしれません。

そしてもう一つ私にこの作品を書かせたものが尾形光琳という人物の面白さ。
一絵師(画家)に留まらず権力、金力、女性にも俗心を覗かせる破天荒な男としての魅力。
又その二つのテーマを絡めるように浮き立たせる地模様のように登場する人々の、時代の流れに浮かび沈み織り成す人間模様。つまり私の書きたかったのはタイトルが示す通り「元禄」(時代)「光琳」(主人公)「模様」(人々の生き様)なのです。それを現代に照射させるために所謂“時代劇”ではなく現代劇として書いた積りです。例えば科白(言葉)は現代劇のそれに時代の風味をつけ、装置も抽象的な物を想定しており、衣装も、極端ではありますが光琳が黒のデザイナーズスーツを纏って出てきても良いくらいの気持で書きました。

さて、実際の上演ではそれらを演出家がどう解釈して演出されるのか、楽しみでもあり不安でもあります。 この受賞を機に創作のペースを少し上げて行こうと思っております。
しかし、自分のアンテナに引っかかったものをじっくり書くというこれまでの姿勢は崩さずに。

選評 -受賞作について 選考委員 太田省吾

平成15年11月11日 尼崎市内のホテルニューアルカイックにて記者会見

昨日行われました〈近松賞〉の選考会で、保戸田時子作『元禄光琳模様』に対し、大賞を授与することに決定致しました。

この作品は、タイトルで示されておりますように尾形光琳を扱い、絵師としての生き方を元禄という時代の中で、大名や公家との葛藤をもつ町衆としての心意気を保持しようとする人物として描いた作品でした。
この作品の評価点は、演劇的な新しさとか発想のめずらしさといったところに気を廻すことなく、ゆったりと鷹揚な筆致で描くべきところをしっかりと描いたところにありました。
そして、その描き方の全体的トーンが、光琳の作品の華やぎと切りつめたところにも通じるところが感じられ、幾双もの屏風絵を前にする心地にさせる力がありました。

疑問を含め、問題となった二三点についてですが、場面が京と江戸にとられ、京都の場面で京言葉が用いられていないことが問題となった一つでした。やや私見が混じりますが、その地域性だけでなく、この作品は所謂時代的なものいいも避けているのであり、それは地域性や時代性を超えさせようとされている作家の姿勢であると解釈できるものでした。 というよりむしろ、そういった地域性や時代性の型を用いずに、それでいて単なる現代化でなく、地域性や時代を感じさせている作者の力に感心させられました。 もう一つは、エピローグは不要ではなかったか、上演に際してはどうしても再考の必要ありという意見が全員から提出されました。

「紅白梅図屏風」で幕を下すのはすてきですが、小さく納めてしまった残念を感じました。
〈近松賞〉はじめての大賞が出ました。われわれも喜んでおります。
これからますますよい作品を書きつづけられることを願っております。

近松賞選考委員(敬称略、50音順)
  • 太田 省吾 (劇作家、演出家)
  • 栗山 民也 (演出家)
  • 別役 実 (劇作家)
  • 水落 潔 (演劇評論家)
  • 宮田 慶子 (演出家)

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